五限目

カーテンが揺れている
隙間から落ちている光が
床から波打つ図形を切り取っている
向こうを見てはいないけれど
今日は綿雲がちぎれてあっちやこっちから入ってきたり
初夏の落ち着かない静けさが少しずつにじんでくる
黄色のチョークがカッカッと響く
むつかしいカタカナが並んでいる
ケシゴムが落ちて誰かがひろって
ついでにちょっと借りて使う
得意げにはじめて
それから指で
なぞられたままの
後ろの黒板の隅の
四十人のおかしな落書き
過ぎた日にちのプリントは期限をあおり
書き直したはずの日直はもう誰かに笑われた
美しい生徒と生徒と生徒の矛盾が
立ったり座ったりする
ゆるめられたネクタイを
ゆっくりとまたほどくように
うとうとと
まくったシャツに頬をのせる
空はいつも青いはずだ
前髪をきにしながら
そう語る彼は
いつだって紙タバコの
そとみを丸めていて
だってそうじゃないか
いくら雲があったって
目が見えなくったって
黒に近いところでは
広がる球体のそとみでは
ただただ青いとしか言えない
彼はそんなようなことを言った
隣の席
あるいはどこかの廊下で
つまらない事を話すように
地球とどこかの合間
とっても曖昧な場所で
一様に白く揺れている円周率を
見たことがある
それは確かな曲線で
かつ黒との
境界線だった
青と黒とに挟まれたその白に
よくよく目を凝らすと
ちいさな灰色のネズミが
てかてかてかと歩いている
裏側にいきやしないかと
手を伸ばしてみると
その指の輪郭までもが
白くぼやけた
カーテンの切り取る領域が
よく焼けた頬を含むころ
あたりのチョークがやんで
ローマの水道橋を
ケシゴムが転がっていた